結婚なんてしたくない
スカートなんか履きたくない










 この村では、女は十五になると結婚する、と言う風習があった。
文明から取り残されたこの地域一帯では、そんな風習が、今でも続いていた。


 ゴオゴオと風の吹く崖の上。二つの人影があった。座り込んで何か話しているらしい。
「おれも今年で十五だ。でも、おれ、結婚なんてしたくないな」やや長めの黒髪。
言葉遣いこそ少年のものだが、その声は、間違いなく少女のものだ。
「おれは此の侭が良い。結婚したら家にずっと居て、家事をして、子供を育てる。それも、男の
言いなりだろ?そんなのは嫌だ」
少女は隣に居る人物に話し掛け続ける。少女に凭れ掛かるようにしており、顔が良く見えない。

「男なんて皆そうだ。いつも威張って、女を見下しやがる」
忌々しそうに拳を振る。
「おれも男になりたいよ。男だったらこんな思いしなくてすんだのにな」
もう一人は答えない。
「おれさ、今まで何度も縁談ってのを申し込まれたんだ。その相手の男達ってのがさ、上っ面は
良い人ぶっててさ、まっおれは元々結婚する気なんかないから引っ掛かんないんだけどさ」
少女は笑顔で、少し声を落とした。
「それがさ、ちょっとおれがその気になった振りをするとすぐ本性を表すんだ。ハハっそんなや
つらは皆一発くれてやったけどな」
その時の事を思い出したのか少女は笑い始めた。
ひとしきり笑った後で、また、語りだす。
「おれがさ、今まで大人しくしてたのにさ、いきなりあいつ等に襲い掛かったら慌ててたよ。全く本
性隠してたのはどっちだっつうの。ククククク」
もう一人が少し前屈みになったようだ。眠ってでも居るのか、ほとんど動かない。
「おれはそんな奴らの顔を見る度に、虫唾が走るよ。だから、そいつ等全員平等に何度も、何度
も刺してやったよ」
崖の下から風が吹く。死臭を孕んだ黒い風。
「お前は案外マシだと思ってたのに。やっぱ駄目だな。男は」
少女が太陽のような笑みを浮かべる。
「おれはずっと此の侭だよ。これからもきっと」
ビュオオオオオオオオオオ
後半は風で聞き取れない。
遠くから少女を呼ぶ声がした。
「ああ、もう行かなきゃな。じゃあな」
少女が走り去ると、もう一人はぐらりと揺れ、崖の下に落ちていった。





ゴオゴオと風の吹く崖の下。沢山の死体がある。
ほとんどが腐っていたが、その中でまだ、比較的新しい死体。
頭蓋が割れ、脳漿を飛び散らせたソレの胸には、明らかに崖から落ちて出来た傷とは違う刺し傷 がある。
「きっと、お前らみたいな男達を、殺し続けるよ」

ビュオオオオオオオオオオオオオオ