完璧なものなんてつまらないと思わないか。


私は藤本の言葉に頷く


ああ、ほら見てみろ。あそこを歩いている女性。なんて美しいのだろう。人の好みもある
だろうが、造りは最高じゃあないか。体型も実にバランスが良い。
もったいないなあ。完璧過ぎる。彼女みたいのは多少精神に歪みでもあれば丁度良いと思
わないか。


また頷く


ああ、ほら、あそこを歩いている青年。なんて美しいのだろう。まずは顔がきれいだ。素
晴らしい。そしてあの足を見てみろ。なんて長いのだろう。
もったいないなあ。完璧過ぎる。彼みたいのはあの長い足が一本ほど欠けているぐらいが
丁度良いとは思わないか。


私は微かに笑みを浮かべながら頷く



藤本の言っていることは正しい
現に私は、自慢の長い足を失い精神を盛大に歪ませて毎日車椅子でがらごろと街をうろつ
きその歪み具合にどんどん拍車を掛けている藤本が愛しくて堪らない
ああ、なんて美しいのだろう
これで藤本が動かなくなって体は冷たくだらりと垂れ下がり自慢の足の断面をさらけだ
して腐臭を撒き散らすようになったりしたらそれはもう

丁度良いどころのはなしではなくなる