ああ退屈だ退屈だ
男は呟いて背もたれに体重をかけた。
まだやらなければいけない仕事が大量に残っている。
ただただ単調な作業。
頭痛がしてきて顔を顰める。
男はぼんやりと時計を見た。
何を思ったのかいきなり立ち上がり、たまたま机の上にあったカッターナイフをポケッ
トに突っ込む。辺りを見回し、誰も自分に注目していないことを確かめ、少し悲しい気分
になるが、とりあえず会社を出て、すぐ近くのホームセンターに入る。辺りを見回し、ま
たもや誰も注目していないことを確かめる。調理器具のコーナーに行き、柳刃包丁2本を
両手に持ち、果物ナイフやら何やらをポケットに入るだけ入れて置く。何を思ったのか大
きな鍋を1つ、頭にかぶる。一息ついていると近くにいた主婦がちらちらとこちらをみて
いるのでにっこりと笑みを浮かべて無造作に腹に包丁を突き立てる。凄まじい悲鳴が上が
り、男は走り出す。通りがかりの人々を次々と刺していき外に飛び出す。夕日が眩しい、
走って自分の会社を目指す。勿論人々に切りつけつつ。切れなくなってくるとポケットに
ねじ込んでおいた果物ナイフを取り出し、また刺していく。会社に入り、ナイフが無くな
ると今度は頭にかぶっていた鍋を振り回し、社長室に乗り込み社長をこれでもかと殴ると
鍋を放り出し、カッターナイフを取り出す。社会の馬鹿野郎と呟き自分の首に突き立てる
と血がぴゅーと迸り、視界が暗くなる・・・
そこまで考えてから男ははっと我に返った。
いつかやろうやろうと思っているが未だに実行に移せない。
男はそんなことが出来る筈も無く、出来たとしても何も変わらないことを知っている。
それでもそのことに気付かないふりをして男は仕事に戻る。
そうだそうだ考えている間がこの上も無く幸福な日々なんだ、と呟きつつ。